投稿日:2026/09/27

【専門家が解説】QEEG(定量的脳波)検査における「治療用」と「学習用」の決定的な違い

QEEG
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複雑性トラウマ(C-PTSD)やPTSD、不安障がい、抑うつ、学習障がい、発達障がい、ADHD、ASDなど、深いお悩みを抱えている方にとって、ご自身の脳の状態を客観的に把握することは非常に重要です。

このため、クリニックで「QEEG(定量的脳波)」を受ける方が増えてきました。それに伴い、「他院で受けたQEEGのデータを使って、そちらでニューロフィードバックを受けられませんか?」というお問い合わせをいただくことがあります。

結論から申し上げますと、多くの場合、他施設で取得したデータでニューロフィードバックを開始することは非常に困難です。

QEEG(定量的脳波)と言っても、目的によって大きく異なるからです。

本記事では、心理学および神経科学の知見と査読済み論文のエビデンスに基づき、QEEG(定量的脳波)の基礎知識から、医療機関等で主に用いられる「治療用(診断・外部介入用)」と、当施設で行う「学習(ニューロフィードバック)用」の決定的な違いについて詳しく解説します。

QEEG(定量的脳波)とは?:言葉の意味と歴史的背景

QEEGとは、「Quantitative Electroencephalogram」の頭文字をとった言葉であり、日本語では「定量的脳波」と訳されます。

Quantitative(クオンタテイティヴ)とは、英語で「量的な」「定量的(数値化できる)な」という意味の形容詞です。
Electroencephalogram(エレクトロエンセファラグラム)とは、electro-(電気)encephalo-(脳)-gram(記録図)で構成されたハンス・ベルガーによって造語された言葉であり、一般的には脳波と訳されます。

「定量的」という言葉は、辞書的な意味としては「物事の状態や変化を数値や数量として表すこと」を指し、目視だけでは感覚的な評価になりがちな脳波の波形を、コンピュータ等を用いて数学的・統計的に処理し、客観的な数値データや視覚的なマップとして表す技術のことです。

歴史を振り返ると、1929年にドイツの精神科医であるハンス・ベルガーが、人間の頭皮上からアルファ波(ベルガー波)やベータ波といった脳波を記録することに成功しました(Berger, 1929)。
ベルガーの時代から、脳波の振幅や周波数を数値化して定量的に捉えようとする試みは始まっており、現在のQEEG(定量的脳波)の基盤となっています。

QEEG(定量的脳波)の多様性:目的によって異なるアプローチ

QEEG(定量的脳波)は、すべて同じ方法で行われているわけではありません。
目的に応じて様々な測定方法や分析手法が存在し、それぞれの目的に対する「正解」があります。

例えば、測定条件一つをとっても、以下のような多様性があります。

  • 開眼状態(目を開けた状態)のみの測定
  • 開眼状態と閉眼状態(目を閉じた状態)の両方の測定
  • 上記に加えて、読書や計算などの認知タスク中の測定

分析の深さについても、脳の表面的な活動(頭皮上の電位)のみを分析する方法もあれば、sLORETA(標準化低分解能脳電磁トモグラフィ)などの数学的アルゴリズムを用いて、脳の深部活動を推定する3次元的な分析を行う方法もあります(Pascual-Marqui, 2002)。

さらに、脳波を測定する電極の数(チャンネル数)も施設により異なります。
数カ所のみを測定する「ミニキュー(Mini-Q)」と呼ばれる簡易的な方法から、多チャンネルでの測定など様々です。

「診断・外部介入用」と「学習用」の決定的な違い

QEEG(定量的脳波)を導入している施設には、大きく分けて2つの方向性があります。

一つは、疾患の診断補助や、外部からの物理的・磁気的・薬物的な介入のベースラインを決定するための「治療用(診断・外部介入用)」のQEEG(定量的脳波)です。
このアプローチでは、特定の疾患特有のパターンを見つけ出すことや、外部介入の有効性に主眼が置かれます。

なお、米国神経学会(AAN)や国際臨床神経生理学連合(IFCN)などの主要な学会は、QEEG(定量的脳波)を「補助的なツール」として位置づけており、医療機関では脳波データ単独ではなく、医師による丁寧な問診、各種心理テストなどによる心理的評価、生活状況のヒアリングなど、さまざまな評価を総合して、慎重に診断や治療方針の決定が行われています。

もう一つは、当施設が専門とする「学習用(ニューロフィードバック用)」のQEEG(定量的脳波)です。
ニューロフィードバックは、オペラント条件づけという心理学の学習理論を基盤とする心理療法の一つです(Hammond, 2011)。

「学習用」のQEEG(定量的脳波)では、クライアントご自身の脳波パターンを詳細に把握し、「どの脳波帯域を、どの部位で、どのように自己調整するトレーニング(学習)を行うべきか」という最適なプロトコル(手順)を作成することを目的とします。
外部から強制的に脳の状態を変えるのではなく、ご自身の脳が本来持っている自己調整能力を引き出し、自発的な学習を促すための道筋を立てることが最大の目的です。

当施設のQEEG(定量的脳波)分析プロセスとプロトコル作成

当施設におけるQEEG(定量的脳波)測定と分析は、ニューロフィードバック「学習」を最大化するために、以下のような手順で実施しています。

  • 19チャンネル測定が基本:健康な方の標準化データ(データベース)と正確に比較するため、国際10-20法に基づく19チャンネルでの測定を基本としています(状況に応じて3箇所の測定から開始することもあります)。測定時間は5分から20分程度です。
  • 開眼・閉眼データの取得:ニューロフィードバックのプロトコル作成において、開眼時と閉眼時のデータの比較は不可欠です。目を閉じた際のアルファ波の増加(アルファブロッキングの確認)や、ベータ波などの変動を確認します。
  • 3次元的分析の活用:表面のデータに加え、sLORETA等を用いた推定3次元的分析を実施し、脳内のどこをトレーニングセンターすればいいかを評価します。
  • 質問紙との統合:脳波データだけでなく、心理状態や生活背景を伺う詳細なアンケートにご記入いただき、主観的なお悩みと客観的な脳波データを統合して、最適なニューロフィードバックプロトコルを作成します。

心理カウンセリング、認知行動療法(CBT)、EMDRといった心理療法でもベースラインを評価(アセスメント)しているように、ニューロフィードバックにおいても、クライアントお一人おひとりの状態(ベースライン)を評価(アセスメント)することが、心理・身体症状の改善に向けた第一歩です。

Electrode locations of International 10-20 system for encephalography recording
国際10-20法
By トマトン124, Public Domain,

生波形の目視チェックがなぜ重要なのか

一般的なQEEG(定量的脳波)のデータ処理では、測定したデータをコンピュータで平均化し、ブレインマップ(少数チャンネルの場合はミニマップ)を作成して標準化データと比較します。

しかし当施設では、定量化(数値化)する前の「生の波形(生波形)」を目視でチェックするプロセスを非常に重視しています。
一部の施設では省略されることもあるプロセスですが、ニューロフィードバックを安全かつ効果的に行う上で欠かせない手順です。

生波形のチェックでは、筋電(筋肉の緊張によるノイズ)や眼球運動によるアーティファクト(ノイズ)を特定するだけでなく、ウィケット波(Wicket spikes)やベータスピンドルなどが含まれていないかを慎重に確認します。
これらの波形は定量化されたデータやブレインマップには正確に反映されないことが多く、目視での確認が必要です(Arns et al., 2013)。

次に、適切なデータカット(ノイズの除去)を行います。
データカットの方法はいくつかあるのですが、コヒーレンス(脳の部位間の連携度合い)や位相(タイミング)の分析が可能な方法である、エポックリジェクションという手法を用いています。

ノイズ除去をしたデータから、ブレインマップを作成します。

※以上の手順は、複数のQEEG専門書・技術書、ニューロフィードバック専門書・技術書で共通する一般的な方法です。

ブレインマップの例
出力されたブレインマップの例

まとめ

QEEG(定量的脳波)は、心理的・身体的症状の背景にある脳の状態を可視化する強力なツールです。

「治療(診断や外部介入)」を目的とした測定と、当施設のような「ニューロフィードバック(学習を基盤とする心理療法)」を目的とした測定とでは、測定条件(開眼・閉眼の比較)、生波形の厳密な目視チェック、3次元分析の活用など、多くの点でアプローチが異なります。

同じQEEGという名前ですが、中身が違うと考えてよいでしょう。

ご自身の脳の状態を深く理解し、根本的な自己調整能力を高めるための学習を基盤とした自己調整トレーニング(ニューロフィードバック)にご興味がある方は、まずは当施設の初回面談をご検討ください。客観的なデータと心理学的な知見を統合し、お一人おひとりに寄り添ったサポートを提供いたします。

参考文献・出典

  • Berger, H. (1929). Über das Elektrenkephalogramm des Menschen. Archiv für Psychiatrie und Nervenkrankheiten, 87(1), 527-570. (ハンス・ベルガーによる脳波の発見と初期の定量化)
  • Pascual-Marqui, R. D. (2002). Standardized low-resolution brain electromagnetic tomography (sLORETA): technical details. Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 24(Suppl D), 5-12. (sLORETAを用いた3次元的分析)
  • Hammond, D. C. (2011). What is neurofeedback: An update. Journal of Neurotherapy, 15(4), 305-336. (ニューロフィードバックがオペラント条件づけに基づく学習である)
  • Arns, M., et al. (2013). Evaluation of EEG abnormalities and quantitative EEG in psychiatric disorders. Clinical EEG and Neuroscience, 44(4), 256-264. (生波形の目視チェックとアーティファクト確認の重要性について)
  • Thatcher, R. W., et al. (2003). QEEG and traumatic brain injury: Evidence-based medicine. QEEG and Traumatic Brain Injury. (QEEGの多様な適用と標準化データベースの比較)

よくある質問

  • Q.
    医療機関の脳波検査で異常なしと言われましたが、ニューロフィードバックを受ける意味はありますか?
    A.
    医療機関における検査は「疾患に該当するかどうか、薬が効いているか」など診断・治療目的で行われます。一方、ニューロフィードバックは健康な方(医療機関で治療が不要な方)でも受けることができ、仕事やスポーツにおけるパフォーマンスアップなども期待できます。
  • Q.
    心理カウンセリングとニューロフィードバックはどのように違うのでしょうか?
    A.
    心理カウンセリングが対話を通じて思考や感情の整理を行うのに対し、ニューロフィードバックは「脳波を使って自己調整能力を学習していく心理療法の一つ」です。言葉をメインにしているかどうかが大きな違いといえます。 同じ点として、心理カウンセリングは気づきによる学習が重視されるように、ニューロフィードバックでも学習による気づきが重視されます。 また、心理カウンセリングもニューロフィードバックも強制力はないため、クライアント様が完全に拒否した場合の効果は望めません。
  • Q.
    QEEGに痛みや不快感はありますか?
    A.
    外部から電気を流したり、刺激を与えたりすることは一切ありませんが、電極を固定するために、帽子をかぶったときのような締め付け感があります。なお、締め付けが無理な方には締め付けることのない方法でも実施することが可能です(時間が30分程度余分に必要)。

この記事を書いた人

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