記憶の種類 感覚記憶&作動記憶&長期記憶

記憶には様々な種類があることが判明していますが、何種類の記憶があるのかについては、研究者により様々な見解があります。
異論が出ないと考えられるものとして、「感覚記憶」「作動記憶」「長期記憶」があります。
また、記憶の保持時間による記憶のモデルに二重貯蔵モデルがあります。

感覚記憶とは、極短時間保持できる感覚の記憶
眼や耳、皮膚から入ってきた情報を伝えるまでの間、感覚を処理するまでの間、感覚をそのまま保持しておくシステムが感覚記憶です。
光や音を処理するまでには、複数の神経細胞を経由するため、0.1秒~0.01秒程度の時間が必要になるからです。
視覚の場合:アイコニック・メモリー
視覚の感覚記憶のことを、アイコニック・メモリーといい、保持できる時間は約1秒です。
眼に入った光は、次のように大脳に伝えられます。
網膜の視細胞→視神経→視(神経)交叉→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉の視覚野
聴覚の場合:エコイック・メモリー
聴覚の感覚記憶のことを、エコイック・メモリーといい、保持できる時間は約2秒です。
音は次のように大脳に伝わります。
鼓膜→耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)→前庭窓→蝸牛→蝸牛神経→橋{蝸牛神経核(ニューロン交代)}→外側毛帯→中脳の下丘→視床の内側膝状帯(中継)→側頭葉の聴覚野
すぐに消えてしまう作動記憶(ワーキング・メモリー)
作動記憶はワーキング・メモリーとも呼ばれ、情報の保持と情報の処理を行います。
作動記憶の「情報の保持だけ」にしたものを短期記憶といいます。
歴史的には、短期記憶で情報の保持を行うことがわかった後、情報の処理の影響を情報の保持が受けてしまうことがわかり、情報の保持に特化した短期記憶というだけの説明では、説明しきれなくなったために考えられたのが作動記憶(ワーキング・メモリー)です。
作動記憶は、頭の中か言葉にして反復(リハーサル)しない限り、数秒から数十秒で消えてしまいます。
短期記憶の保持可能容量は7±2
短期記憶(作動記憶の情報保持)の保持できる容量は、7±2チャンクと考えられています。
近年、4±1程度ともいわれています。
チャンクとは、情報のまとまりの単位で、人によって異なります。
ABCが企業名の省略だと知っている人は、ABCで1チャンクとして認識できますが、知らない人は3チャンクとなります。
ただし、知らない人でもABCでひと塊と認識した場合は、1チャンクとなります。
たとえば、10桁の電話番号を口頭で伝えるとき、10桁一度に伝えると短期記憶の容量をオーバーしてしまうので、相手は覚えることができません。
そこで、10桁の電話番号を3つに分割して伝えると、短期記憶の容量以下となるため、相手に伝わります。
短期記憶を留めておくリハーサル
短期記憶は数秒から数十秒で消えてしまいますが、言葉をいうか頭の中で反復するリハーサルをすると保持することができます。
リハーサルには、機械的な反復を行う維持リハーサルと、長期記憶に定着させやすくする緻密化リハーサルがあります。
維持リハーサル
維持リハーサルは、単純に繰り返すだけです。
緻密化リハーサル
たとえば、「1192」という4桁の数字を覚えるとき、リハーサル中に「いい国」と語呂合わせをすると、リハーサルを辞めて時間が経過しても思い出しやすくなります。
このようなリハーサルを緻密化リハーサルといいます。
ほぼ永続的、ほぼ無限である長期記憶
長期記憶は、ほぼ永続的に、ほぼ無限に記憶できます。
長期記憶は、言語化できる宣言的記憶と、言語化が困難(言語化しようとすればできるものもある)な非宣言的記憶(手続き的記憶)の2種類あります。
さらに、宣言的記憶はエピソード記憶と意味記憶に分けられます。
手続き的記憶は技能の記憶、古典的条件づけ、プライミングなどに分けられます。
ただし、宣言的記憶と手続き的記憶という区別は確立していますが、エピソード記憶と意味記憶の分け方などに異論があります。
宣言的記憶
宣言的記憶は、意識的に思い出すことができるため、顕在記憶と呼ばれることもあります。
ただし、エピソード記憶や意味記憶を忘れ意識的に思い出せなくなったけれども、切っ掛けとなる言葉で思い出す(潜在記憶になっている)こともありますから、宣言的記憶≠顕在記憶です。
エピソード記憶は、自分の経験した記憶
エピソード記憶とは、「今朝、おかゆを食べた」というような自分自身が経験した記憶のことです。
他人が経験した記憶は、意味記憶
「1185年に鎌倉幕府が成立し、1192年に源頼朝が征夷大将軍に任命された」は、自分自身が経験した記憶ではないので意味記憶になります。
エピソード記憶と意味記憶の関係
多くのエピソード記憶の積み重ねによって、意味記憶に変化していくという説(個人的な経験が意味記憶の構築に必要なため)と、意味記憶とエピソード記憶は別のシステム(健忘症)という説があります。
手続き的記憶(非宣言的記憶)
技能の記憶を含め、手続き的記憶を言語で説明しようとすると、大雑把な説明になってしまいます。
手続き的記憶は、意識的に思い出せる記憶ではないため、潜在記憶と呼ばれることもあります。
技能の記憶
自転車に乗る、泳ぐ、野球などの身体技能の記憶。
自分の母語(日本人なら日本語)を使える能力(認知機能の記憶)があります。
文法を言葉で説明できなくても、ある文章に文法的な間違いがないか大まかな判断をすることが可能です。
技能の記憶は、長期にわたって保持することができます。
しかしながら、技能の記憶を獲得するには、努力が必要です。
古典的条件づけ
プライミング
プライミングとは、先行した情報(プライム:呼び水という意味)により、後続の情報処理に影響を与えることです。
意図的に思い出そうとしても、思い出せない記憶をプライムを使って、呼び出すことができます。
例えば、「昨年の夏、山形でラーメンを食べた」という記憶を忘れていたところ、「昨年、夏、山形」というキーワードを与えられたとき、「そういえば・・・」と思い出すことです。
参考文献
公認心理師必須テキスト改訂第2版
高野陽太郎著 認知心理学 放送大学
解剖学講義改訂3版 南山堂