投稿日:2017/10/28

パニック障害の認知行動療法

悪循環を変える
心理学
この記事は約 25 分で読めます。

パニック障害の治療で効果のある認知行動療法ですが、どのように進めるのか、不安になっている方もいらっしゃるでしょう。

そこで、専門用語をなるべく使わないで、わかりやすくご説明します。

実際に受ける場合には、お悩みの内容によりセッションの順番は変わることがありますのでご了承くださいませ。

セッションとはパニック障害の方、ご家族の方とカウンセラーが面談(カウンセリング)やトレーニングすることです。1回50分が一般的です。

目次

最初の面談

最初の面談は下記のことをお話しするセッションです。

苦痛や不安がどのように変化してきたのか、点数化しライフチャートを作成し今回の認知行動療法における目標を設定します。

たどたどしい言葉でゆっくり話していただいても支障ありません。

安心して話すようにしましょう。

お話する内容

  • 今現在、困っている症状
  • 症状が出たきっかけ
  • これまでの対処方法
  • 現在の職業
  • 家族構成
  • 日常生活の様子
  • 生まれた場所や育った場所
  • 幼少期の家族構成
  • 学校生活の状況
  • お仕事の状況
  • 結婚などのライフイベント
  • 今までかかった病気
  • 生活習慣

お話をもとに、苦痛や不安がどのように変化してきたのか、点数化しライフチャートを作成します。

今回の認知行動療法における目標を設定します

  • 1~2か月で達成する目標
  • 認知行動療法を終了するときに達成したいこと
  • 数年後に達成したいこと

パニック障害と認知行動療法について学ぶ

パニック障害と認知行動療法について学ぶセッションです。

パニック障害について学ぶ

パニック障害とは、突然理由もなく、動悸(どうき)、呼吸困難、胸の痛み、めまい、吐き気などの症状があらわれ、激しい不安や恐怖に襲われるパニック発作を繰り返す病気です。

パニック障害が疑われる例
  • 00:00
    電車

    電車に乗っていたら理由もなく突然、胸が痛くなり強い不安に襲われる

  • 01:00
    救急病院

    救急病院に行ったのですが、検査を受けても『異常なし』でした。

  • その後
    繰り返す発作と不安

    その後、同じ発作が繰り返され、またいつ発作がおこるのか、とても不安になりました。

  • その後
    電車に乗れない

    電車に乗るのが怖くなって外出できなくなりお仕事を辞めてしまいました。

パニック障害の特徴

人口のおよそ1~3%がパニック障害になっています。女性が男性のおよそ2倍多く、青年期に突然、パニック障害になる方が多いといわれています。

パニック障害の原因

パニック障害の原因は今のところはっきりとしていません。

これまでの研究から、脳内の不安・恐怖に関係する神経系の機能障害に関連していることがわかっています。

パニック発作

パニック発作は数分以内にピークに達し、通常数分~数十分程度で自然に治まります。

パニック発作の症状は以下のようなものがあります。

  • 速い心拍、心臓がどきどき
  • 胸の痛み、不快感
  • 冷感(悪寒)、熱感(のぼせ)
  • 発汗
  • 吐き気
  • 身震い、震え
  • めまい、気が遠くなる
  • 息切れ
  • 窒息感
  • しびれ、ぞくぞくうずく
  • 非現実感・離人感
  • 自制心を失う恐怖、気が狂う恐怖
  • 死ぬ恐怖

パニック障害が疑われるのは、下記のときです。

  • 予期せぬパニック発作が繰り返し起こる
  • 少なくとも1回の発作後、1か月間以上、以下の3個のうちの1つ以上が続いている。
    • もっと発作が起こるのではないかという心配が続く
    • 発作またはその結果(例えば、死んでしまう、気を失ってしまう、気が狂ってしまうなど)について心配する
    • 行動に大きな変化が生じる(例えば、発作を避ける、発作を抑えるために何かする)

広場恐怖

広場恐怖はパニック発作が起こることへの強い恐怖からうまれます。

「パニック発作が起こった時に逃げるのが難しい、または助けを求められない」

と思うような場所・状況にいることの不安です。

例えば、「公共の交通機関(電車・バス)」「映画館」「美容室」「人混み」「橋」「トンネル」「渋滞」「一人になる」などの場所・状況に対して不安を強く感じます。

不安を感じる場所・状況を避けたり、避けていなくてもひどい辛さを感じながら耐えなくてはいけなかったり、同伴者を必要としたりします。

予期不安

予期不安は、パニック発作を経験した後に、また同じような発作が起こるという不安です。

予期不安や広場恐怖が日常的な不安・緊張を高め、特に苦手意識に強い状況で、さらにパニック発作が起こりやすくなるという悪循環が起こります。

パニック障害の例

「突然、動悸(どうき)がしてきて強い不安に襲われ(発作)、救急病院で診察、検査を受けても異常はないといわれました。

しかし、繰り返しこの発作にみまわれ、また起こるのではないかといつも不安(予期不安)となりました。

その後、電車やバスに乗るのがこわくなって、外出することが難しくなり(回避行動)、職場を休職しました。(機能障害=日常生活での障害)」

パニックの悪循環

パニックは悪循環します。

ある出来事を不安と感じ、不安と感じるために身体がドキドキし、「死んでしまう」という考えがよぎり不安が増してしまいます。

パニック悪循環

認知行動療法について学ぶ

認知行動療法とは、自分の「考え方(認知)」や「行動」のパターンによって「困りごと(症状)」が続いてしまう悪循環に気づき、考え方や行動の幅を広げ柔軟にしていくことで、不安や落ち込みなどの「感情(気分)」の困りごとを解決していく心理療法です。

世界中で行われており、科学的な根拠に基づく優れた治療法です。

認知行動療法の例

動悸(どうき)がすると、「心臓がどきどきしているのは、心臓発作で死ぬことを意味する」と考えるために非常に強い不安を感じます。

「動悸(どうき)→心臓発作→死」という考え方(認知)を修正することで、「心臓がどきどきして死んでしまうのではないか」という不安が下がります。

考え方を修正することを「認知の再構成」といいます。

よくある感覚と思考の関係

感覚思考
息切れ窒息
胸のしめつけ感心臓発作
しびれ脳梗塞(のうこうそく)
めまい失神
動悸(どうき)
非現実感発狂

不安・心身相関(しんしんそうかん)

不安や緊張のような精神症状と動悸(どうき)、呼吸困難などの身体症状は、密接に関連しています。

精神症状と身体症状が関連していることを心身相関(しんしんそうかん)といいます。

人を含む動物が恐怖の対象を目前にしたとき、自らの生存を脅かす敵などの脅威に直面するとき、不安や恐怖が脳の「扁桃体(へんとうたい)」によって意識に上らない形で生まれます。

同時に、心拍や呼吸が速くなり、発汗などの交感神経系が優位になる「闘うか逃げるか反応」が生理的反応として起こります。

パニック発作は、恐怖を感じるものが何もないのに、恐怖に対する反応(動悸など)が突然起こるのです。

「火災報知機の誤作動」が起こったような状態です。

パニック発作の場合、何から逃げていいかわからないため、パニックが起きた状況自体を避けてしまいます。

さらに、パニック発作を繰り返すと、「○○という場所は怖い、パニック発作になる」ということを無意識に学習してしまい、広場恐怖がうまれます。

広場恐怖に対する暴露(ばくろ)療法

不安や緊張に立ち向かい乗り越えるまで反復練習することで、不安や緊張を下げていくのが暴露療法です。

時間の経過や何度も同じ状態を繰り返すと、不安や緊張の大きさが下がるからです。

暴露療法

何度も繰り返すことで、スポーツのトレーニングと同じように不安や緊張が下がってきます。

暴露療法の手順

症状を目標に変える

現在の症状をやる気の出る目標に置き換えます。

電車に乗れない例で考えてみましょう。

症状:電車に乗れない
短期目標(1~2か月後に達成したいこと):駅まで行く、電車のTV番組を見る、誰かと電車に乗る、各駅停車に乗る、快速電車に乗る
長期目標(数年後に達成したいこと):電車で旅行に行く

不安階層表を作成

場所・状況に対して、どのくらい不安を感じているのか数値化します。

実際に行ってなくても、想像して点数を出します。

最も不安を感じている状態が100点で、不安をまったく感じない状態が0点です。

数字が大きいほど不安を強く感じます。

場所・状況不安度
船・飛行機
新幹線
美容院
歯科
電車
渋滞
観覧車
坂道
外食
100点
90点
90点
90点
50点
40点
30点
10点
0点
具体的な練習課題を作成

作成した不安階層表から、50点くらいの状況を選び練習課題を作成します。

電車の不安度が50点だった場合の例

練習課題1:一人で新検見川駅まで歩いて、電車で西船橋駅まで16分移動し、同じ経路で戻ります。(不安度50点)

練習課題2(不安度を下げる):夫と新検見川駅まで歩いて、夫には駅で待機してもらい、一人で電車に乗り西船橋駅まで16分移動し、同じ経路で戻ります。(不安度40点)

練習課題3(さらに不安度を下げる):夫にずっと同行してもらい電車に乗るが、夫とは別々の車両に乗ります。(不安度30点)

課題に取り組む

実際に作成した課題を1時間半程度かけておこないます。

十分に不安が低下したと感じるまで、一つの恐怖場面にとどまります。

最低15分間とどまってください。(15分ルール)

課題の前後で、不安に点数をつけます。

最も不安を感じている状態が100点、不安をまったく感じない状態が0点です。

状況・場面不安度
課題前
駅で電車に乗る前
電車往路
電車復路
50点
50点
40点
30点
結果をプラスに評価します

課題がうまく達成できたら、自分をほめて喜びましょう。

2回連続で同じ課題が達成でき、課題後の不安度が30点以下になっていたら、より不安度の高い課題をおこないます。

もし、うまく達成できなかったときは、自分がチャレンジしたことをほめましょう。

不安度が強く課題を少し簡単にしてしまったとしても、進歩しています。

例えば、駅まで行ったけれども電車には乗らすに帰ってきたとしても、進歩しています。

リラクゼーション法(呼吸法)

自律訓練法やめい想と同じように、リラックス状態を得るものです。

  • 座るか、いすにもたれかかります。
  • 息を止めて準備します。
  • 3秒かけて息を鼻から吐きます。息を吐くとき、静かに自分をなだめるように頭の中で「リラックス」とゆっくりといいましょう。
  • 3秒かけて鼻から自然に息を吸います。
  • 3秒かけて息を吐き、3秒かけて息を吸う、ことを続けます。6秒で一呼吸です。(1分間につき10呼吸)
  • 5分程度続けます。

※1日4回、朝昼夕晩に練習しましょう。

※鼻呼吸が苦しければ口呼吸でもいいです。

身体感覚

下記の言葉が、いつも正しいか考えてみましょう。

  • 胸がどきどき → 心臓発作 → 死
  • 息が苦しい → 窒息 → 死
  • めまい → 脳卒中 → 死
  • 頭がパニック → 自己制御不能 → 狂気

胸がどきどきするのは、すべて心臓発作でしょうか?

息が苦しいと、必ず窒息するのでしょうか?

めまいがすると、常に脳卒中になるのでしょうか?

頭がパニックになると、いつも自己制御ができなくなるのでしょうか?

過呼吸

過呼吸(過換気)症候群はパニック障害と密接に関連しています。

過呼吸になると不安警報が呼吸を増大させ、過剰な呼吸が起こり不安症状を悪化させます。

また、過呼吸は体外に二酸化炭素を吐き出し過ぎて、血液の中にある二酸化炭素の量が減少します。さらに、過呼吸は空気中の酸素をたくさん吸うので、血液の中にある酸素の量が増加します。

過呼吸中に経験する「手足や唇など体の末端のしびれた感じ」 「頭がぼうっとする感じ」 「目の前が暗くなる感じ」「努力しないと息が吸えないような感じ」などの感覚は血液中の二酸化炭素の量が減るためにおこります。

過呼吸後は血液中の酸素濃度が高いので、いつもよりずっと長く呼吸を止めることができます。

安全行動

不安を引き起こす場所・状況において下記のような行動をすることを安全行動といいます。

  • 他の事を考えようとする
  • 何かにつかまったり、寄りかかったりする
  • 誰かにつかまったり、寄りかかったりする
  • 座る
  • じっとしている
  • 極めてゆっくりと動く
  • 逃げ道を探す
  • 無理矢理身体的な運動をする
  • 自分の体に注意を向ける
  • 考えをコントロールしているようにする
  • 行動を厳密にコントロールしているようにする
  • もっとしゃべる
  • 薬を飲む
  • 助けを求めてまわる
  • 呼吸を変える

安全行動をすると、パニック発作から逃れることができますが、パニック発作は危険ではないことに気がつかないので、安全行動をしなくても良い状態にしていくことが大切です。

パニック障害の悪循環に気づく

パニック障害を維持する悪循環に気づくセッションです。

下記の3つの要素と各要素の関連が、パニック障害を維持する悪循環となっています。

  1. 心が「不安」「恐怖」状態になります。
  2. 体の反応から死をイメージします。「自分の心臓がどきどきしているから心臓発作で死ぬのだ」というように、否定的なイメージを大きくしています。(身体感覚の破局的な誤った解釈)(Clark&Salkovskiset al.1997)
  3. 不安を防ごうとして、安全行動(回避行動)をするが、不安が持続してしまいます。
パニック障害の悪循環

パニック障害の悪循環に気づくため、下記の順で認知行動モデルを作成します。

次回以降のセッションでは、認知行動モデルの各要素が重要なカギとなります。

  1. パニック発作が生じる典型的な場面や最近パニック発作を感じた場面を決めます。
  2. 自動思考・信念・スキーマを探ります。
  3. 不安症状・身体症状を書き出します。
  4. 安全行動を書き出します。
  5. 破局的な死のイメージ(注意が向いてしまう対象として)を書き出します。
  6. 各構成要素の関連や悪循環についてお話します。
  7. その他のパニック場面を取り上げて認知行動モデルを拡充します。
  8. 宿題:セッションで扱った以外のパニック場面について、認知行動モデルを作成します。また、パニック日記をつけるようにします。
認知行動モデル

自動思考

出来事に対して瞬間的に表面に出てくる思考のことです。

自動思考の例:希望がない 自分は価値がない

スキーマ

自動思考を作る考え方の癖、身に染み付いた思い込み、意識してない価値観、信念のことをスキーマといいます。

例えば、「私は生きていちゃいけない」というスキーマがあると、「お金は他人のためのもので、私のためのものではない」という信念が生まれ、「お金をいただく」という出来事があると「こんなに・・・申し訳ない」という自動思考が生まれます。

パニック障害の悪循環に気づくセッションは認知行動モデルの作成を優先するので、自動思考や信念、スキーマをしっかりと探りません。

別のセッションで自動思考や信念、スキーマをしっかりと探り、パニック発作への恐怖や不安を無くしていきます。

自動思考や信念、スキーマをしっかりと探るには2~3回のセッションが必要です。

自動思考とスキーマ

安全行動と注意が不安を高めていることに気づく

安全行動が必要な時期もありますが、安全行動を続けているとパニック障害から抜け出せません。

安全行動は最悪の事態にならないように使われるものですが、常に安全行動をしてしまうと、安全行動をしなくても発作が起こらないことがわからず、不安が持続してしまうからです。

子どもが生まれて初めて自転車に乗るときに、補助輪があったほうが乗りやすいように、パニック発作時の対処法として呼吸法などのリラクゼーション法を使いますが、自転車に乗れるのに補助輪をつけていると不便になってきます。同じように、リラクゼーション法を不安時に欠かせない安全行動とすると不便になってしまいます。

安全行動と注意が不安を高めていることに気づく手順

  1. セッション内で実施可能な不安を感じる課題をいくつかリストアップします。
    例:電車に乗ることを想像する。
  2. 不安レベルが50点程度のものを選びます。
  3. 選んだ課題で起こる最悪な事態と防ぐための安全行動を確認します。
    事態の例:動悸(どうき)が激しくなり心臓発作で死ぬ。
    安全行動の例:座って休む。
  4. 安全行動がある場合と安全行動がない場合のロールプレイをします。
  5. ロールプレイについて、どのような結果だったのか数値化します。
  6. ロールプレイの結果についてお話します。
  7. 宿題:パニック日記に、自分が実際に安全行動をしているかどうか記録します。
    不安を起こす状況で安全行動をやめたら何が起こるか考えてみます。

心の中のイメージを変える

パニック発作の感覚が死につながると心の中でイメージしているので、死につながるようなイメージを変えていくセッションを行います。

心の中のイメージを変える手順

  1. 動悸(どうき)・過呼吸などのパニック発作による最悪なイメージを目を閉じて思い浮かべます。
    例:救急車が間に合わず路上で死ぬ、という自分の姿のイメージ
  2. 「1」のイメージを思い浮かべたとき、どのような不安と体の感覚がありますか?
  3. 「1」のイメージが引き起こす鮮明度、苦痛度、イメージの意味、イメージの出現頻度はどのくらいでしょうか?
  4. 「3」のイメージの意味について詳しく話し合い、確信度が低下するようにイメージの意味を考えます。
  5. 否定的なイメージから肯定的なイメージを引き出します。
  6. 新たに引き出した肯定的なイメージの苦痛度とイメージの意味の確信度はどのくらいになりましたか?
  7. 今まで持っていたイメージの予想と実際の結果、安全行動を行う場合と行わない場合の違いなどについて話し合います。
  8. 宿題:イメージが出現する頻度がどのように変化したのかパニック日記に記録しましょう。

注意を柔軟に変えられるようにするトレーニング

注意を柔軟に変える練習をするセッションです。

パニック障害は、注意を動悸(どうき)や過呼吸、めまいなどに向けているため、体の変化に敏感になり不安になりやすくなっています。

注意を同じところに保っている場合も、柔軟に注意を変化できるようにトレーニングする必要があります。

注意を柔軟に変えるトレーニングの手順

注意を柔軟に変化させるためには、練習が必要です。

  1. パニックではない状況で、注意を変化させる練習をします。
  2. 目を閉じて体の中の感覚に注意を向けます。
  3. 1~2分したら目を開けて、自分の周囲にあるものに集中します。
  4. パニックではない状況で、体の中の感覚への注意と自分の周囲にあるものへの注意を交互に切り替える練習をします。
  5. パニック状況で、体の中の感覚への注意と自分の周囲にあるものへの注意を交互に切り替えます。
  6. 宿題:1日1回以上、上記のトレーニングを行います。トレーニングをした内容と日付、気づいたこと、発見したことについてパニック日記に記載します。

自分の考えと現実が違うことに気づく行動実験

パニックになる状況や場面で予想していることが起こりにくいことに気づき、自分を苦しめる考え方になっていることに気づくセッションです。

パニックから逃れるために安全行動や回避行動をしているので、驚異的な結果(死んでしまうなど)が実際に起こるかどうか、わからなくなっています。

「パニックになると死んでしまう」という苦しめる考え方を変えるために、考え方の原因の信念や思い込み、自動思考、スキーマを変えていきます。

行動実験の手順

  1. 実験するパニックの状況や場面を書き出します。
    なるべく詳細な状況を頭の中で思い描き書き出しましょう。
  2. 何が起こるか予想します。予想の確信度も記入しましょう。
  3. 予想を実験するために、何をするか決めます。
    安全行動をしないイメージを持ちましょう。
    行動実験で安全行動をしてしまうと、自分を苦しめる考え方から抜け出せません。
  4. 「3」で考えた方法で実験をします。
  5. 結果を書き出しましょう。
    何が起きたでしょうか?
    予想は正しかったでしょうか?
    予想と結果にはどのような違いがあったでしょうか?
  6. 行動実験で学んだことを書き出します。
    予想したことは今後も起きるでしょうか?
    実験で追加したいことはありますか?
    納得できなかったことはありますか?
  7. 一人で行動実験ができるようになるまで、繰り返し行います。
  8. 一人で行動実験をしてみましょう。

記憶の書き直し

パニックの状況や場面で繰り返されるイメージや、過去の記憶に振り回されないようにするセッションです。

というのも、過去のパニックになった出来事が現在の自分にも起こるかのように感じているからです。(フラッシュバック)

過去のパニック状況や場面が、現在の自己イメージと結びついたり、過去のパニック状況や場面が、信念や自動思考、スキーマの形成をしてしまいます。

現在の出来事を過去の限られた情報だけで判断していることもあります。

大人としての視点や認知行動療法を通して得た新たな視点からトラウマ記憶を変えていきましょう

記憶を書き直す手順

パニック場面で繰り返されるイメージを探ります

  1. パニック場面で不安になるときに生じるイメージについて
    「パニックに関連する状況で不安になるとき、自動的に繰り返し生じるイメージがありますか?」
  2. 目を閉じてそのイメージを作り出し描写しましょう。
  3. イメージの意味を言語化します。
    「イメージで最悪のことは何ですか?」
    「それはあなたにとってどのようなことを意味していますか?」
  4. イメージの鮮明さ(生々しさ)、苦痛の度合いを数値化します。
    0−100:まったくない−非常にある
  5. 最近の1週間に起こったイメージの頻度の回数をお聞きします。

記憶を探ります

  1. 繰り返し生じるイメージに関連した記憶についてお聞きします。
    1. 「先ほどのイメージで生じた感情を初めて感じたのはいつですか?」
    2. 「場所はどこでしたか?」
    3. 「その場に誰がいましたか?」
    4. 「その時あなたは何をしていましたか?」
    5. 「どうしてその場にいたのですか?」
    6. 「どのようにしていましたか?」
  2. 記憶を言語化します。

    「その感情に結びついている出来事を、それがまるで今起こっているかのように、話してください」
  3. 記憶の意味を言語化します。

    「その記憶で最悪のことは何ですか?」

    「あなたにとってどのようなことを意味していますか?」
  4. 記憶の鮮明さ(生々しさ)、苦痛の度合いを数値化します。
    0−100:まったくない−非常にある

信念を探ります

  1. イメージと記憶の意味について1〜2文の文章で表現(要約)します。
  2. 作成した文章の確信度を数値化します。
    0−100:まったくない−非常にある

認知再構成をします(記憶に関する認知の再構成)

探った信念とは異なる新しい信念の証拠を不安や恐怖に敏感でなく鈍感でいいと考えながら、書き出します。

過去の記憶は、単なる経験であり現在と関係ないとすることが大切です。

  1. パニック状況や場面で繰り返し出てくるイメージが、どのくらいの年齢でどのような記憶だったのか大まかにまとめます。
  2. パニック場面における死のイメージの再構成や行動実験の結果などを材料に、今までの信念とは異なる、新たな信念の証拠を書き出します。

身体感覚イメージと結びつく記憶の書き直しをします

  1. 目を閉じてトラウマ記憶のときの自分に戻り、今ここで起こっているかのように現在形で語ります。
  2. 記憶を追体験します。
    記憶の場面に、今の自分が第3者として見ているように状況を語ってもらいます。もう一度、パニックに関連するトラウマ的な出来事を追体験しますが、今度は若い頃の自分に何が起こっているのか、現在の自分がそこにいて、出来事が展開しているのを見ているかのように観察します。
  3. 記憶に介入します。
    大人の自分が過去の体験した場に一緒にいる感覚で、過去の自分にアドバイスや同情などをします。
    ※終わったら、記憶が今どのように感じられるか確認します。
  4. イメージと記憶について再評定をします。
    イメージと記憶について、鮮明さ(生々しさ)、苦痛の度合いを数値化します。
    また、信念の確信度についても数値化します。
    0−100:まったくない−非常にある
  5. 宿題:イメージがこの1週間でどのくらい出てきたか、回数を記録します。
    治療の進み具合で下記の中から選択しおこないます。
    • 本セッションの後、新たにできるようになった行動を記録します。(ポジティブ・データログ)
    • 「イメージ書き換え」で若い自分にかけてあげた言葉を書き留めて、毎日見ます。
    • 「イメージ書き換え」で若い自分にかけてあげた言葉のほかに、効果的な言葉を思いついたら書き留めておきます。
    • イメージがどのくらい苦痛か数値化します。
      0−100:まったくない−非常にある

パニック場面の前後の悪循環を変える

パニック場面の前後で繰り返しやってしまう悪循環を変えるセッションです。

パニック場面の前でリハーサルすると、不安を高めてしまいます。

パニック場面の後で「あーだった」「こうすれば」と反省することがパニックを悪化させる原因になっています。

本来不要な安全行動や回避行動を肯定してしまうからです。

パニック場面の前後の悪循環を変える手順

  1. パニック場面・状況に入っていく前後で、どのようなことを考えたり、行動したりしているかを確認します。
  2. それぞれのメリットとデメリットについて詳細に話し合います。
    リハーサルと振り返りを何度も何度も繰り返す「ぐるぐる思考」になっていないか確認しましょう。
  3. 出来事の前後の行いが、よりデメリットの少ない方法になるように話し合います。
    後から考えたり、やってしまうことを一切行わないようにすることが望ましいです。
    ただし、「身体感覚に基づく死のイメージを否定する証拠」や「良いイメージを思い返す」ことが必要なケースもあります。
  4. 宿題:パニック場面の前後で、予期不安と振り返りを辞めることができたか、いつもと違うやり方ができたかを、その都度記録します。
悪循環を変える

メリットはそのまま活かして、デメリットを出来るだけ少なくするには、どうしたらいいでしょうか?

前もって考えたり、やってしまうこと パニック場面の出来事 後から考えたり、やってしまうこと

例:1週間後に、千葉から山形に行く電車の中で胸のドキドキが起きた場合のリハーサルをする

パニック場面の出来事

例:1週間後に電車で千葉から山形に行かなくてはならない

後から考えたり、やったりしてしまうこと

例:安全行動について、一人反省会をする

最悪な事態について他の人の考えを知る

自分は最悪な事態だと思っていますが、同じことが他の人に起こってもいつも最悪な事態だと思っていません。

行動実験でパニック場面における特定の予測を実験し信念を変えるための証拠を集めました。また、恐れている最悪の事態が実際には起こりにくいことを行動実験で発見できたはずです。

一歩進めて、恐れている最悪の事態が起こったとしても、他の人は否定的に考えないことに気づくセッションです。

他の人の考えを調査する手順

  1. これまでの行動実験を通じて、どのような信念や想定が揺さぶられたか(変わったか)「残っている信念は何か」を書き出します。
  2. 恐れている最悪の事態をリストアップします。
    動悸(どうき)から心臓発作を起こして死んでしまう、人前でパニック発作を起こして、周りに迷惑をかけてしまう、など
    1. 上記で作成したリストについて、他者の考えや解釈を検証するための質問紙を作成します。
    2. 破局的な予測に関する質問を書きます。
      例:動悸(どうき)で死んでしまうことがあると思いますか?
    3. 破局的な信念に関する質問を書きます。
      例:人前でパニック発作を起こす人はダメな人間だと思いますか?
    4. 調査する人たちを決めます。
  3. 宿題:上記で作成した質問紙を、家族やお知り合い、友人などに配布し、回答を得ます。
  4. 調査の結果から得られた考えや、これまで持ち続けた予測や信念などについて話し合います。

※最後の項目は、他のセッションで扱うことになります。残っている信念・想定については次のセッション「スキーマワーク」で扱います。

作成する質問紙の例

電車内で過呼吸を起こしている人についてどう思いますか?

父:体調が悪くなったのかな

母:かわいそうだな、声をかけようかな

友人:何があったのかな、私も過呼吸起こしたことがあるし、大丈夫かな

電車内で過呼吸を起こしている人を見た後、どのくらいの時間、どのくらいの強さでその人が気になりますか?

父:全く気にならない

母:少しだけ気になるが、いつの間にか忘れている

友人:立ち去っていく間に、違うことを考えてしまうだろう

電車内で過呼吸を起こしている人は迷惑ですか?

父:何とも思わない

母:迷惑だとは思わない

友人:全く迷惑ではない

電車内で過呼吸を起こしている人は醜態(しゅうたい)をさらしていますか?

父:全然そう思わない

母:たまたま体調を崩しただけで、恥ずかしいとは思わない

友人:そんなことはない。お互い様

残っている信念・想定を検討します(スキーマワーク)

これまでのセッションで反証や変えるのが難しかった信念に対して、柔軟な見方ができるようにするセッションです。

パニック障害に特徴的な想定と信念は以下に分類されます

  • 身体感覚に対する極端に高い警戒感
  • 条件付き信念
  • 無条件の信念

多くの「身体感覚に対する極端に高い警戒感」「条件付き信念」は行動実験で対処できます。

「無条件の信念」は行動実験で変わることもありますが、他の認知的操作の追加を検討する必要があります。

なぜなら、「無条件の信念」は大抵が漠然としたもので、なかなか抜け出せないからです。

スキーマワーク手順

  1. 否定的な信念・想定(スキーマ)を「ルールA」とします。
    極端に高い警戒感の例:胸のドキドキにいつも注意しなければならない。
    条件付き信念の例:常に胸のドキドキに注意していなければ、死んでしまう。
    無条件の信念の例:結局、自分は突然死を迎える。
  2. 否定的な信念・想定「ルールA」に変わる肯定的な信念・想定を「ルールB」として決めて、いつでも見られるように、コーピーングカード(フラッシュカード)を作成します。
    例:もしも、心臓がドキドキしたなら、心臓発作で死なないように十分注意して休憩しなければならない。→心臓がドキドキしても発作とは違うのだから、そのまま歩き続けてよい
  3. 宿題:「ルールB」に基づくコーピングカードを毎日暗唱します。携帯の待ちうけ画面や見やすい場所にカードをはるなど
    「ルールB」が正しいと思える具体的な行動や考えなどの証拠を発見や実践できた場合、発見や実践できたときのポジティブな感情を日記として記録します。(ポジティブ・データログ)

再発予防

これまでのセッションを振り返り、認知行動療法を他のことにも使えるようにするセッションです。

認知行動療法を他の問題にも使えるようになると再発を予防できます。

認知行動療法は自分自身で問題解決の具体的な方法を見つけいくことを助ける治療法だからです。

おそらく、今までのセッションでパニック障害の悪循環から抜け出せたことでしょう。

せっかく、悪循環から抜け出せたのですから、認知行動療法を使ってパニック障害の再発を予防していきましょう。

再発予防の手順

  1. あなたの症状について、最悪なときと現在を比べてみましょう。
    1. どのような気分に苦しんでいましたか?現在はどのように変わりましたか?
    2. どのような体調不良がありましたか?現在はどのように変わりましたか?
    3. 仕事や学業、家事、育児などがどのように妨害されていましたか?現在はどのように変わりましたか?
    4. 余暇や趣味がどのように妨害されていましたか?現在はどのように変わりましたか?
    5. 人間関係でどのような問題がありましたか?現在はどのように変わりましたか?
    6. 変化したことを書き出してみて、どのように思いましたか?
    7. 最悪のころを100点とすると現在は何点でしょうか?
    8. まだ残っている症状や困りごとはありますか?
  2. あなたの問題を維持してきた要因を復習してみましょう。
    1. どのような状況が苦手でしたか?
    2. 苦手な状況でどのように考えていましたか?
    3. その背後にあった「信念」は?
    4. どのような(逆効果な)行動をしていましたか?何に注意を向けていましたか?
  3. これまでの回復を継続・強化していくために何ができるでしょうか?
    1. 日々の生活で気をつけることはありますか?
    2. 自分で認知行動療法をやっていく方法はありますか?
    3. その他の工夫や読んでみたい参考書はありますか?
  4. 今後、いつ、どのような状況で似たような問題が生じると思いますか?
  5. 今後はどのように問題に対処しますか?
    (最悪な事態になったときに出てきそうな受け止め方に対する別の考え方)
  6. 別の行動の仕方はありますか?
    (最悪な事態になったときにやってしまいそうな行動に対する別の方法)
  7. 気分転換やストレス対処の方法はありますか?
    ご自身で対処できないときは、誰にどのように助けを求めますか?

まとめ

いかがだったでしょうか?

1万3千字程度あるので、読むのも大変だったかと思います。

記憶の書き直しのセッションでは、大人の視点だけではなく、楽観的な視点、堅実な視点、批判的な視点の3つで行ったり、どのような未来を得たいのか?という未来から考えるセッション、葛藤状態を無くすセッションなど多彩な方法があります。

参考文献

厚生労働省|パニック障害ガイドライン
下村晴彦・神村栄一著|認知行動療法

この記事を書いた人

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