脳の奥にある「学習とやる気」のエンジン〜心理療法としてのニューロフィードバックが心身を整える理由〜
ニューロフィードバックで脳が変化する仕組み
こんにちは。ニューロフィードバックとQEEG専門施設のニューロフィードバックセラピスト、ワタナベアリミチです。
いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。
当施設が提供しているニューロフィードバックのセッションでは、頭部にセンサーを装着していただき、脳波の状態を音や映像といったゲームのような形で頭脳へ「フィードバック」しながらトレーニングを行っています。
しかし、「どうして画面を見たり音を聞いたりしているだけで、複雑性トラウマや発達障がいによる悩みが変化していくのだろうか?」と不思議に思われる方も多いかもしれません。
本記事では、ニューロフィードバックによって脳の働きが変化する仕組みについて、脳の深部に位置する重要な器官である「大脳基底核(だいのうきていかく)」の働きを中心に、近年の脳科学の研究を交えながら解説いたします。
大脳基底核とは?運動・やる気・自律神経のコントロールセンター

大脳基底核は、脳の奥深く、大脳皮質と間脳の間に位置する神経細胞の集まりです。
これまで大脳基底核は、主に「身体の動き(運動)」をコントロールする部位として知られてきました。
しかし、近年の脳科学の研究(2023年〜2026年)により、大脳基底核は単なる運動器官にとどまらず、「運動」「自律神経(内臓の働き)」「覚醒」「モチベーション(やる気)」といった複数の機能を一つに結びつける、巨大なネットワークの一部であることが示唆されています。
つまり、大脳基底核は身体を動かすことだけでなく、心身の状態や学習意欲を調整する中心的な役割を担っていると考えられています。
ニューロフィードバックを駆動させる「学習のエンジン」
ニューロフィードバックのセッション中、ご自身の脳波が設定した目標状態に達すると、「ポン!」という音が鳴ったり、画面の映像が進行したりします。セッションにおける音や映像の変化を「報酬」と呼びます。
報酬を受け取る際、脳内ではどのような処理が行われているのでしょうか。
現在主流となっている仮説では、報酬を受け取るたびに、大脳基底核(特に線条体と呼ばれる部位)がドーパミンという神経伝達物質を利用して、「現在の脳波状態が正解である」と認識し、新しい状態を定着させようと猛烈な勢いで学習していると考えられています。ドーパミンとは、喜びや意欲を感じる際に分泌される物質のことです。
つまり、大脳基底核は、セッションのたびにフル稼働して脳波の調整を促進する「学習のエンジン」として機能しているのです。
科学が示唆する心と身体のつながり〜新たなネットワーク「SCAN」〜
長年、「心(メンタル)」と「身体(フィジカル)」は密接に連動していると言われてきました。
ゆっくりと深呼吸をすると心が落ち着いたり、過度なプレッシャーを感じると胃腸に不調を来したりする現象は、多くの方が経験されている身体反応です。
2023年、科学誌『Nature(ネイチャー)』にて、ワシントン大学のエヴァン・ゴードン博士らの研究チームが、心と身体が連動するメカニズムの正体を解き明かす画期的な論文を発表しました。
論文内で報告されたのが、「SCAN(体性認知行動ネットワーク:Somato-Cognitive Action Network)」と呼ばれる脳内の新たな回路です。
これまで、脳内で運動をコントロールする領域には、手や足、口などを動かすスイッチが順番に並んでいると考えられてきました。手足のスイッチがきれいに並んでいるというモデルは、約90年間にわたり医学の定説とされてきました。
しかし、最新のfMRI(機能的磁気共鳴画像法)技術で脳を詳細に調査した結果、手や足を動かす領域の隙間に、未知のネットワークが入り込んでいることが確認されました。
発見された未知のネットワークこそが、呼吸、心拍、胃腸の働き(自律神経)といった全身のコントロールと、目標に向かって努力する(認知・やる気)という心の働きを、同時に強く結びつけるSCANだったのです。
トラウマや不安障がいとSCANの関係性
SCANの発見により、「身体をリラックスさせると不安感が和らぐ」「心を整えることで身体の痛みが軽減する」という現象が、気のせいではなく、脳の回路として実在する可能性が高いことが示されました。
複雑性トラウマ(C-PTSD)や心的外傷後ストレス障がい(PTSD)を抱える方は、過去の過酷な体験によって脳のネットワークが過覚醒(常に危険に備えて神経が高ぶっている状態)に陥りやすいとされています。
過覚醒の状態では、自律神経系の調節異常が生じ、不安障がいや抑うつ、慢性的な身体の痛みといった症状が引き起こされると考えられています。
実際、過剰な覚醒のひとつの指標であるベータ波の振幅が多いことが見受けられます。
当施設でニューロフィードバックを受けられた方が、集中力の向上といった心理・脳機能の変化だけでなく、同時に「睡眠が深くなった」「パニック状態になりにくくなった」といった身体面での変化を実感されるケースが多数存在します。
心理面と身体面の両方に変化が生じる理由は、ニューロフィードバックを通して脳波をトレーニングすることで、大脳基底核からSCANへと繋がるネットワーク全体のバランスが整っていくためであると研究により推測されています。
脳波のチューニングは、心と身体を繋ぐ神経ネットワークの絡まりをほどき、全身の機能を調整する作業そのものと言えます。
「やる気が出ない」状態と脳内の報酬計算メカニズム
最後に、発達障がいや学習障がい、あるいは抑うつ症状を抱える方々にとって非常に重要な点をお伝えします。
「どうしてもやる気が出ない」「何をしていても楽しいと感じられない(無快感)」と深く悩んでいる方が多くいらっしゃいます。
周囲から怠けていると誤解され、ご自身を責めてしまうケースも少なくありません。
しかし、近年の脳科学および心理学の知見では、やる気が出ない状態は本人の性格や怠慢によるものではないと示唆されています。
無気力や快感消失は、大脳基底核における「労力と報酬の計算エラー」が起きていることに起因すると考えられています。
つまり、「脳が現在の状態において、行動に必要な努力(コスト)に対して過剰な料金を見積もっており、得られる報酬が割に合わないと判断している」状態なのです。
「あなたの脳は現在、努力に対して過剰な料金を請求している」といってもいいでしょう。
ニューロフィードバックは、大脳基底核における報酬システムのズレに対して直接アプローチし、徐々に適切な計算ができるように脳をチューニングしていくトレーニングです。
実際のセッションでは、トレーニングを短い間隔に分割して開始時の負担を抑えたり、無理のない目標設定から始めたりすることで、脳内の報酬システムを少しずつ回復させていきます。
心理と脳のダブルアプローチによるサポート
ニューロフィードバックは、目に見えない脳の働きを、人間が本来持っている「学習する力(大脳基底核の機能)」を活用して整えていく、科学的かつ自然な心理療法の一つです。
現在抱えている深いお悩みに対しては、医療機関での薬物治療や心理カウンセリング、認知行動療法(CBT)やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、TF-CBT(トラウマフォーカス認知行動療法)などの具体的な心理療法に取り組まれている方も多いかと存じます。
既存の治療法や心理療法に加えて、同じく心理療法の一つであり、脳のネットワークに直接働きかけるニューロフィードバックを組み合わせることで、症状改善の大きな助けになる可能性が多くの研究で示唆されています。
「自身の抱える不調も、脳のネットワークのバランスが関係しているのではないか」と感じられた方は、一人で抱え込まず、ぜひ当施設までお気軽にご相談ください。
心理学と脳科学の専門的知見から、初回面談にて丁寧にお話を伺い、脳の学習エンジンを再起動するお手伝いをさせていただきます。
よくある質問
- Q.複雑性トラウマによるフラッシュバックや強い不安感にも、ニューロフィードバックは影響を与えますか?A.はい。複雑性トラウマによるフラッシュバックや不安感は、脳の扁桃体(恐怖や不安を感じる部位)の過活動や、自律神経の調整異常が関係していると研究で示唆されています。ニューロフィードバックによって脳波のバランスを整えることで、過剰な警戒状態を鎮め、症状の緩和をサポートできる可能性が多くの研究で報告されています。
- Q.発達障がいや学習障がいに伴う「集中力の欠如」や「無気力」に対してもアプローチできますか?A.アプローチ可能です。発達障がいや学習障がいを抱える方の脳内では、大脳基底核の報酬システムや、集中力を維持するための神経ネットワークに通常とは異なる働きが見られることが分かっています。ニューロフィードバックを用いることで、脳が「適切な状態」を学習するプロセスを促し、集中力や学習意欲の向上をサポートしていくことが期待できます。

