投稿日:2025/05/04

低速変動(ISF)ニューロフィードバック(1Hz以下ニューロフィードバック)

QEEGニューロフィードバック
ニューロフィードバック
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1Hz以下のニューロフィードバックには、ILFの他にISFがあります。

低速変動(ISF)ニューロフィードバックとは、非常に低い脳周波数をターゲットにした手法です

低速変動(ISF)ニューロフィードバックは、0.1Hz以下の非常に低い脳波周波数をターゲットとした、比較的新しいニューロフィードバックの手法です。

従来の周波数帯域ニューロフィードバックとは異なり、ISFトレーニングは脳の基本的なリズムに着目し、ベースラインの覚醒状態や自律神経系の調節、脳機能の全体的な最適化、安定化を目指します。

ISFニューロフィードバックのアプローチは、脳の自己組織化能力を活用し、より深いレベルでの自己調整を促す可能性を秘めています。

脳が生み出す最も低いエネルギーの周波数帯域:低速変動(ISF)

脳が生み出す最も低いエネルギーの周波数帯域である0.1Hz未満の活動が、低速変動(ISF)です。ISFという名称は、「Infraslow Fluctuation(インフラスロー・フルクチュエーション)」の略称です。

従来の脳波で一般的に扱われるデルタ波(<4Hz)、シータ波(4-8Hz)、アルファ波(8-12Hz)、ベータ波(12-30Hz)、ガンマ波(30-100Hz)といった周波数帯域よりも、はるかに低い領域の活動です。

従来のニューロフィードバックとISFニューロフィードバックの違い

従来の周波数帯域ニューロフィードバックは、特定の周波数帯域の振幅を意図的に増減させることを主な目的とするのに対し、ISFトレーニングは、ISF信号の振幅の自然な変動を捉え、振幅変動をクライアントにフィードバックすることで、脳の状態の変化をモニタリングすることに重点を置いています。

ISFトレーニングは、特定の目標を達成するための直接的な訓練というよりも、脳の状態の微細な変化をクライアントが認識し、それに基づいて最適な自己調整を促すことを目指すアプローチです。

ISFトレーニングの特徴は、脳の状態の変化と、特に自律神経系の調整に焦点を当てている点です。

自律神経系は、心拍、呼吸、消化など、意識的な制御なしに機能する身体のプロセスを調整する役割を担っており、ストレス反応である闘争・逃走・凍結・迎合反応も含まれます。

ISFの変動は、大脳皮質の全体的な興奮性に影響を与え、脳と身体の様々なプロセスを協調させる上で重要な役割を果たすと考えられています。

ISFの由来

ISFと名前が付けられた理由は、ISFニューロフィードバックが扱う脳波の特性に由来します。

具体的には以下の2つの要素が組み合わさっています。

  1. Infraslow(インフラスロー): これは、「非常に遅い」という意味で、ISFニューロフィードバックが、1ヘルツ(Hz)よりも低い、極めてゆっくりとした脳波の周波数帯域を対象としていることを示しています。
  2. Fluctuation(フルクチュエーション): これは、「変動」や「揺らぎ」という意味で、ISFニューロフィードバックが、この非常に遅い周波数帯域における振幅(波の高さ)のわずかな変化や揺らぎに焦点を当ててトレーニングを行うことを意味しています。これらの緩やかな変動は、脳の直流(DC)電位の変化によって引き起こされると考えられており、フィードバックの重要なターゲットとなります。

「ISF」という名称は、ISFニューロフィードバック法が、非常にゆっくりとした脳波の周波数帯域(インフラスロー)における、直流電位によって影響を受ける振幅の変動(フルクチュエーション)を利用したトレーニングであることを明確にしています。

以前は「Infra-low Frequency(インフラロー・フリークエンシー)ILF」と呼ばれていたものが、直流電位の変化と周波数の相互作用を重視した「Infra-slow Fluctuation」という名称に変更された経緯があります。

ILFとISFの違いは、飛行機で東京から大阪に行くのにANAを利用するかJALを利用するかという違いに近いです。

達成すべき条件のないフィードバック

ISFニューロフィードバックは、従来の周波数帯域におけるニューロフィードバックとは異なり、方向や量を指定してフィードバックするものではありません。

達成すべき波形を目指すのではなく、単にISF信号をフィードバックするものです。

しかし、非常に遅い変動であるISF信号をフィードバックするには、通常のEEGアンプでは不可能であり、直流(DC)結合EEG差動アンプが必要です。

最初の目標はクライアントにとって最適な周波数を見つけること

クライアントが最もリラックスし、快適でポジティブに覚醒していると感じる最適な周波数を見つけることが、ISFニューロフィードバックの最初の目標です。

最適な周波数を見つけるには3回程度のセッションが必要です。また、自律神経の状態を把握するため、セッション24時間後のレポートが必要です。

ISFニューロフィードバックの原理

ISFトレーニングにおいては、聴覚フィードバックとして提示されるISFの微細な振幅変化が、脳の自己組織化を促す重要なメカニズムとして機能すると考えられています。

複数の研究が示唆するように、脳の超低速変動は、自律神経系の機能に深い影響を与えます。特に、ストレスに対する闘争・逃走・凍結・迎合反応と、休息や消化を促す状態との間の微妙なバランスを直接的に調節する役割を担っていると考えられています。

ISFの変動は、心臓、消化器系、そして自律神経系全体の協調に不可欠であり、超低周波活動が精神的および身体的なレベルでのホメオスタシス(恒常性)を達成する上で、基盤となる役割を果たしていると考えられています。

さらに、ISFは、大脳皮質の興奮性と抑制のダイナミクスにおいても重要な役割を果たします。

超低速の変動におけるわずかなシフトは、脳の特定の領域におけるベースラインの活動レベルを微細に再調整し、過剰な興奮状態や興奮不足の状態を正常な範囲に戻すのに役立つ可能性があります。

また、ISFは、より速い周波数帯域の神経活動を同期させ、高周波活動の位相を調整する働きも持っています。実際、ISFトレーニングではアルファ波やベータ波といった活動が変化し、規範データベースとの差を示すZ値が減少しデータベースとの差が減少します。

ISFトレーニングの主要な目的の一つは、精神的および身体的なホメオスタシスを回復させ、平静で意識的な注意の状態を促進することです。このようなバランスの取れた状態は、様々な不快な症状や、根底にある精神疾患の治療効果を高める上で重要な基盤となります。

ISFニューロフィードバックの実施方法

ISFトレーニングを実施する上で不可欠なのは、直流(DC)結合アンプの使用です。従来の交流(AC)結合アンプは、設計上0.5Hz以下の低周波信号をフィルタリングしてしまうため、ISFのような0.1Hz以下の超低周波の微細な変動を正確に捉えることができません。

DCアンプは超低周波信号を歪みなく忠実に記録し、ISFトレーニングに必要な正確なフィードバックを生成するために不可欠です。ISFトレーニング用に特別に設定されたアンプの場合、直交法を用いた一次バタワースフィルタと、信号の振幅変化を迅速に検出するための暗黙的なエンベロープ検出法を使用し、従来のピークツーピーク検出法よりも速い情報伝達が可能です。

ISFトレーニングでは、Ag/AgCl(塩化銀)電極が使用されます。電極の具体的な配置は、クライアントが抱える症状や、事前の定量脳波(QEEG)評価の結果に基づいて決定されることが多いです。

バイポーラモンタージュとする方法が一般的で、特に左右の側頭葉に電極を配置することが、鎮静効果や覚醒水準の改善と関連していると報告されています。

ISFトレーニングの重要な側面として、個々のクライアントに最適なトレーニング周波数(OF:Optimum Frequency)を見つけるプロセスがあります。

最適な周波数を特定するプロセスには、数回のトレーニングセッションが必要となる場合があり、クライアントとセラピストとの間の積極的なコミュニケーションが不可欠です。

最適な周波数は、クライアントが最もリラックスし、快適で、かつポジティブに覚醒した状態を感じられる周波数であり、自律神経系の交感神経系と副交感神経系のバランスが最も良好な状態を示すと考えられています。

聴覚フィードバック

ISFトレーニングでは、ISF信号の振幅の微細な変化に応じて、聴覚フィードバックがクライアントに提供されます。具体的には、ISF信号の振幅が、信号の減衰平均値と比較して約15%以上増加した場合に高い音が、逆に約15%以上減少した場合に低い音が提示されます。

フィードバックは即時的に行われ、クライアントは自身の超低速脳波活動のわずかな変化をリアルタイムで認識し、脳の自己調整を学習していきます。

ISFトレーニングの効果を最大限に引き出すためには、トレーニングセッション中におけるクライアントとセラピストの相互関係が非常に重要です。

セラピストは、クライアントの表情や報告される感覚を注意深く観察し適切なフィードバックを提供します。クライアントは、トレーニング中に感じる様々な変化(例えば、覚醒度の変化、感情の変化、身体感覚の変化など)をセラピストに積極的に報告し、セラピストはこれらの情報に基づいて、トレーニングのパラメータ、特に周波数を微調整します。

ISFニューロフィードバックの実際

ISFトレーニングは以下のような様々な応用が行われています。

  • 恒常性の問題:脳の恒常性の問題に関連する症状、例えば片頭痛、めまい、発作、気分の変動、喘息、パニック発作に対して、ISFトレーニングが有効である可能性が示唆されています。
  • 発達障害とトラウマ:自閉症スペクトラム障害(ASD)、愛着障害(RAD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、複雑性PTSD など、発達上の問題やトラウマに関連する症状の改善に応用されています。
  • 覚醒と活性化の問題: 注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害、不安など、覚醒水準や活性化の調節に関連する問題にも応用されています。

個々の症例において、ISFトレーニングは、不安の軽減、リラクゼーションの促進、睡眠の質の改善、過覚醒の低減などを主な焦点として行われます。トレーニングの具体的な焦点は、クライアントの抱える個々の症状や状態に基づいて、セラピストによって慎重に調整されます。

ISFニューロフィードバックのフィードバック信号の構築プロセス

信号源:0.1Hz未満の低速変動(ISF)という非常に低い周波数成分からフィードバック信号が導き出されます。

アンプ:ISFニューロフィードバックには、直流(DC)結合EEG差動アンプが必要です。直交法を用いた一次バタワースフィルターと暗黙的なエンベロープ検出法を利用します。これにより、従来のピークツーピーク検出と比較して、振幅変化に関するより迅速な情報が得られます。

直交法:直交分解は、複雑な信号をより単純で独立した成分の合計として表現する方法を提供し、分析、圧縮、およびノイズ低減を容易にすることができます。

バタワースフィルター:通過帯域が数学的に可能な限り平坦な周波数特性になるフィルタ回路。通過帯域は他のフィルタより線形な位相応答を示します(位相歪みを最小限に抑える)。一次バタワースフィルターは、1オクターブあたり-6 dBのロールオフ率を持ちます。

フィルタリング:0 Hzの低域通過フィルター設定と、0.002 Hzから0.012 Hzの範囲の高域通過フィルター設定で始まります。特定の高域通過フィルター設定は、個々のクライアントの最適周波数(OF)を見つけるために調整します。

エンベロープ検出:アンプの暗黙的なエンベロープ検出法は、フィルタリングされたISF信号の全体的な振幅の時間的変化を追跡します。これにより、信号の電力の緩やかな変化の尺度が得られます。

報酬パラメータ:信号の減衰平均に対するISF信号の振幅変化に基づいて聴覚フィードバックを行います。
振幅が15%以上増加すると、高い音が提示されます。
振幅が15%以上減少すると、低い音が提示されます。

持続的報酬基準と不応期:持続的な報酬基準はなく、パラメータが満たされた瞬間に報酬がトリガーされ、条件が続く限り継続されます。さらに、報酬間の不応期はなく、ごくわずかな振幅変化に関する情報でも迅速に伝達します。

ISFニューロフィードバックにおけるフィードバック信号は、クライアントのEEGにおける非常に緩やかな振幅変動の動的な表現です。この緩やかな波の活動の増減に対して即座に聴覚トーンが提供され、クライアントをより自己調整された状態へと導きます。

トレーニングの特定の周波数帯域は、クライアントの反応と臨床症状に基づいて個別に調整されます。

参考文献

https://isfassociates.com/publications

この記事を書いた人

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