ニューロフィードバックの種類

ニューロフィードバックは、脳活動をリアルタイムで測定し、その情報を本人にフィードバックすることで、脳の自己調整能力を高めるトレーニングです。
ニューロフィードバックには様々なアプローチがあり、それぞれ異なる特性と目的を持っています。
この記事では、ニューロフィードバックとQEEG専門施設が提供しているニューロフィードバックの種類について、分かりやすくご紹介します。
目次
超低速変動(Infraslow Fluctuation :ISF)ニューロフィードバック
ISFニューロフィードバックは、脳全体で発生している超低周波(0.1ヘルツ未満)である超低速変動に焦点を当てた脳トレーニング方法です。
臨床研究では、超低周波振動が皮質全体の興奮性を決定づけることが示されています。さらに、超低周波は体内のプロセスと中枢神経系のプロセスを調整します。
実際、超低周波のシフト(変動)は、闘争・逃走・凍結のストレス反応や休息・消化状態など、脳の自律神経系の内部調節に直接影響を及ぼします。
超低周波の小さなシフト(変動)に関するリアルタイムの聴覚フィードバックを提供することで、脳は自己調節能力を最適化することを学習し、さまざまな領域の活動のベースラインレベルを再調整します。
脳の状態の不調や精神疾患の根本的な原因は、興奮度の過剰または低下であることが多いため、ISF ニューロフィードバックは、不安、トラウマ、うつ病などに苦しむ多くの人々にとって比類のない神経療法です。
ISFの特徴
- ターゲット:脳全体の超低速周波数にアプローチします。
- フィードバック:超低速周波数のわずかな変化を、リアルタイムで音のフィードバックとして提供します。
Zスコア(Z-score)トレーニング
Zスコア(Z-score)トレーニングは、個人の脳波パターンを規範データベース(健康な人の平均的な脳波データ集)と比較し、統計的に「正常範囲」に近づけることを目的とした高度なトレーニング方法です。
リアルタイムで脳波のズレ(Zスコア)を算出し、そのズレが小さくなるように脳を誘導します。
Zスコアトレーニングの特徴
- データの活用:QEEG(定量的脳波)から得られた脳活動データを活用します。
- 比較分析:個人の脳活動パターンを、年齢別に標準化されたデータベースと比較し、バランスが崩れている部分を特定します。客観的なデータに基づいているため、個々に合わせた精密なトレーニングが可能です。
- フィードバック:標準的な脳機能に近い活動を示すと「報酬(ご褒美)」が与えられ、標準から外れた活動には報酬が与えられません。報酬には、聴覚的なトーン、映画スクリーンやビデオゲームの明暗などの視覚的な手がかりがあります。
Zスコアトレーニングには、測定するチャンネル数や分析方法によって、さらに複数の種類があります。
19ch(チャンネル)Zスコアトレーニング
19ch Zスコアトレーニングは、頭皮上に19個の電極を配置し、脳全体の活動を網羅的に測定・分析します。
意図と具体的な使い分け
19ch Zスコアトレーニングの主な意図は、脳機能の全体的な最適化と、広範囲にわたる脳波のディスレギュレーション(機能不全)の正規化です。
包括的な脳機能の評価と介入が必要な場合
- 事前のQEEG(定量的脳波)マッピングで、脳全体にわたる広範な機能不全や、複数の領域にまたがる不均衡が確認された場合に選択されます。特定の局所に問題が限定されず、脳機能の全体的なバランス改善が必要と判断されるケースです。
- 複雑な症状や併存疾患: ADHD、不安、うつ、外傷性脳損傷(TBI)後の認知機能低下、自閉スペクトラム、発達など、複数の症状が絡み合い、広範囲な脳領域の調整が求められる場合に推奨されます。全脳的なバランスの再構築を通じて、根本的な問題に対処します。
主要な脳ネットワークの調整
- 19chの広範な測定は、デフォルトモードネットワーク(DMN)、中央実行ネットワーク(CEN)、顕著性ネットワーク(SN)、背側注意ネットワーク(DAN)、腹側注意ネットワーク(VAN)、聴覚/学習ネットワークといった、複雑な脳のネットワークの活動およびそれらの連携(コヒーレンス、位相差)をトレーニングすることを可能にします。これらのネットワークは、思考、感情、注意、記憶など、高次脳機能に深く関与しています。
- 19chシステムは、これらのネットワークを構成する複数の脳領域の活動を同時に評価・調整することで、ネットワークレベルの機能不全に対処し、より複雑な神経精神症状の改善を図ることができます。
局所的トレーニングで効果が見られない場合: 少数のチャンネルでのトレーニングを試みたものの、期待する効果が得られなかった場合に、より広範な脳領域の相互作用が症状に関与している可能性を考慮し、19chに移行することがあります。
1ch〜4ch Zスコアトレーニング(ターゲット型アプローチ)
頭皮上に1〜4個の電極を配置し、特定の脳領域や症状に焦点を絞ったトレーニングが1〜4ch Zスコアトレーニングです。
意図と具体的な使い分け
少ないチャンネル数でのZスコアトレーニングの主な意図は、特定の脳領域や症状に特化した、より集中的な介入です。
特定の症状や脳領域に焦点を当てる場合
- QEEG評価で、脳の特定の局所(例:前頭前野の特定の部位、感覚運動皮質)に明確な機能不全が確認され、それが主要な症状の原因と特定された場合に有効です。その特定された領域に特化したトレーニングを行います。
- 症状に特化したプロトコル:例えば、注意力の向上であれば前頭葉の特定の部位、睡眠の問題であれば睡眠に関連する脳波が優勢な部位など、症状と関連性の高い特定の領域に絞ってトレーニングをします。
費用対効果とアクセシビリティ
予算が限られている場合や、より簡便なシステムで特定の効果を狙いたい場合に選択されます。自宅でのトレーニング(ホームシステム)でも、通常は数チャンネルのデバイスが用いられます。
sLORETA(エスロレッタ)トレーニング
sLORETA (Standardized Low-Resolution Electromagnetic Tomography) トレーニングは、上記のZスコアトレーニングをさらに発展させた、非常に高度なニューロフィードバックです。
sLORETAは、19chの表面電極から収集されたEEGデータに高度な数学的アルゴリズム(逆問題解決)を適用することで、脳の深部領域(例:帯状回、島皮質、眼窩回など)や、皮質内部の特定のブロードマン領域における活動源を3次元的に推定します。そして、推定された脳深部の活動をリアルタイムでZスコア化、視覚化しトレーニングを行います。
sLORETAトレーニングの特徴
- 3Dイメージング:脳の活動をリアルタイムで3次元画像として視覚化します。
- 深部ターゲット:脳の深部に存在する、不規則な活動の原因となっている神経細胞の発生源を特定します。
- フィードバック:標準的な脳機能に沿った活動に対しては報酬を与え、設定された範囲外の活動には報酬を与えません。
- 目的:特定の脳領域の調節不全を改善し、規範的な脳機能を促進します。
脳の深部にアプローチできるため、従来のニューロフィードバックでは難しかった症状にも対応できる可能性があります。
19ch ZスコアトレーニングとsLORETAトレーニングの違い
特徴 | 19ch Zスコア | sLORETA |
トレーニングの対象 | 脳の表面(頭皮直下)における脳波活動の正規化 | 脳の深部構造や特定の神経ネットワークの活動源を推定し、そこを直接トレーニング |
情報の次元 | 2次元的(頭皮上の電極位置ごとのZスコア比較) | 3次元的(脳の深部における活動源の位置と強度を推定) |
臨床的焦点 | 全体的な脳機能の最適化、広範囲な脳波のディスレギュレーションの改善 | 特定の深部脳構造や、症状に特異的に関連する神経ネットワークの調整 |
得意な症状 | 表面的な脳波のパターン異常に起因する広範囲な症状 | 深部脳構造の機能不全に強く関連する、より複雑で困難な症状 |
sLORETAトレーニングは、以下のような場合に選択されます。
- 症状の原因が深部脳構造にあると疑われる場合:従来の表面的なニューロフィードバックでは改善が難しい、難治性のうつ、重度の不安、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、慢性疼痛、依存症など、帯状回といった脳の深部領域の機能不全が強く関与していると考えられる症状に有効です。
- よりターゲットを絞った精密な介入が必要な場合:QEEG分析で特定のブロードマン領域や脳ネットワークに問題が特定された際に、その領域を直接的かつ高い精度でトレーニングすることで、より特異的な効果を目指します。
- 脳損傷後のリハビリテーション:脳卒中や外傷性脳損傷後の認知機能低下や運動機能障害など、特定の損傷部位に関連する深部ネットワークの再編成を促す目的で使用されることがあります。
従来のニューロフィードバック(パワー、振幅)
最も一般的に行われるニューロフィードバックです。頭皮に装着した1~4個のセンサーから得られる脳波(EEG)を用いて、特定の脳波の周波数帯域(例:アルファ波、ベータ波、シータ波)を増強または抑制するようトレーニングします。
主なトレーニング例
- SMRトレーニング:感覚運動リズム(Sensorimotor Rhythm:SMR)を増加させるトレーニングです。集中力の向上やリラックス効果が期待されます。
- 抑制/増強トレーニング:特定の脳波活動を抑制したり、逆に増強したりするトレーニングです。
- アルファ/シータトレーニング:ピークパフォーマンスやトラウマケア、より深いリラックス状態、創造性の向上につながるトレーニングです。閉眼で行いアルファ波とシータ波に報酬を与え、デルタ波とベータ波を抑制していきます。
特徴
- シンプル:比較的シンプルな方法で脳波を調整します。
- 汎用性:さまざまな症状や目的に合わせて、カスタマイズされたプロトコルが利用可能です。
あなたに最適なニューロフィードバック
ニューロフィードバックは、個人の脳波パターン、症状、そして目標に合わせて最適な種類とプロトコルを選択することが非常に重要です。
そのためには、まず経験豊富なニューロフィードバックセラピストによる詳細なQEEG評価(脳波マッピング)を受けることが推奨されます。QEEG評価を通じて、あなたの脳の特性と機能不全のパターンが明確になり、最も効果的なトレーニングアプローチが決定されます。
ご自身の脳と心身の健康のために、ぜひ当施設にご相談ください。